審美的な状態を維持するための歯の形成とクリアランスの与え方
2019年9月10日
せっかく審美的な被せ物を入れたとしても、それがすぐに壊れてしまったり、噛んだ時に違和感やひどい時には痛みがあったりしたのでは、元も子もありません。それには、前に述べた歯の形が重要なのは言うまでもありませんが、それを支える歯の形成、特にクリアランスの与え方が大切になります。
クリアランスとは
歯のクリアランスとは簡単に言いますと、歯を削ったときに嚙み合わせる歯と歯の間にできる隙間や、被せ物を作る時に被せ物の厚みを決めるスペースのことを言います。
前歯の場合は唇側のクリアランスが少ないと歯の色味が悪くなります。つまり十分な歯の光沢や白さが出ないことになります。また、上の前歯の場合は口蓋のクリアランスが少ないと、顎を前や横に動かしたときに被せ物に穴が開いたり、切端に近いところが割れたりする原因になります。
静的クリアランスと動的クリアランス
ここで、仮に顎を動かさない状態のクリアランスを静的クリアランス、顎を前や
横に自由に動かしたときにできるクリアランスを動的クリアランスと名付けます。
静的クリアランスは、被せ物に唇側の厚みや隣の歯との間の厚みを与えますが、これは歯を削る時にバーの厚みなどを指標にすることができますし、経年的な変化がほとんどないためによっぽど術者が不慣れで、形成量が少ない場合以外は問題はありません。
問題は動的クリアランスです。顎を患者さんに動かしてもらい、ミラーを使って目視によって判断するわけですが、患者さんが食事している時や、寝ている時に実際にどのように顎を動かすのかはわかりません。
したがって、意識的に動かしてもらう時にはかなり大げさに、こんな動かし方はしないだろうというくらい動かして貰います。
同時に歯のファセット(歯の摩耗部分)を見て、その人の咬合の仕方を推測します。しかし、ここまで出来ても充分とは言えません。
経年的変化を考慮するとは
最後に経年的変化を考慮する必要があります。経年的変化とは、大雑把に言って、下顎は関節を中心としたヒンジ運動をしますが、その場合奥歯が咬耗して嚙み合わせがわずかに低くなると、前歯の当たりが強くなるということを指しています。
もちろん、人によっては前歯の当たりがほとんどないか、弱い人もいますので、全員というわけではありませんが、通常の咬合の場合は、まず、前歯の当たりは年数と共にだんだん強くなってきます。
そこで咬合を調整する必要が生じるわけですが、クリアランスが少ないと、被せ物がもともと薄いために調整時に被せ物に穴が開いてしまうのです。
生物としての人の変化は激しいために、私は何十年も先のことは見通せませんが少なくとも数年先は予測しながら歯の形成を考えて、なるべく審美的な状態が維持できる工夫をしています。